朝日岳から熊見曽根を経て三斗小屋温泉へ――紅葉の那須岳 その五 | 楽土慢遊

朝日岳から熊見曽根を経て三斗小屋温泉へ――紅葉の那須岳 その五

所在地:
栃木県那須郡那須町、那須塩原市、福島県西白河郡西郷村
交 通:
JR東北本線・黒磯駅→路線バス山麓駅行きにて60分、終点下車/那須塩原駅→路線バス山麓駅行きにて70分、終点下車

2009年9月21日(月):晴れ:朝日岳山頂→朝日岳の肩→熊見曽根→隠居倉→源泉地→三斗小屋温泉・大黒屋

■(紅葉の那須岳 その四からのつづき)前回は朝日岳の山頂にたどり着き、鳥居に目を向けたところで終わった。かつての信仰登山では、湯本口から茶臼岳、御宝前、朝日岳の順に登拝する「高湯山」でも、三斗小屋口から御宝前、茶臼岳、朝日岳の順に登拝する「白湯山」でも、朝日岳が最後にきているということは、おそらくこの三山掛けのなかでなにか明確な位置づけがあったのだろう。

そこでひとつ考えられるのは、三山掛けのなかで中心となっていた茶臼岳を最後に拝むということだ。残念ながら茶臼岳の方向はガスがかかってほとんど視界がきかないので、どのような展望が開けるのか自分の目で確認はできないが、三山掛けという図式のなかで茶臼岳を拝むには最適の場所のようにも思える。

そんなことを考えてみたくなるのは、その四で引用した廣本祥己の論考「山岳信仰を支えた温泉――那須岳を例として――」(日本温泉文化研究会・編『温泉の文化誌 論集【温泉学Ⅰ】』所収)のなかの「湯本口高湯山は、茶臼岳山中に湯殿山、頂上に羽黒山を備え、茶臼岳そのものを月山とする、出羽三山を真似た新霊場として信仰を集めていたのではないか」という考察が頭にあるからでもある。

その場合、出羽三山になぞらえた霊場は茶臼岳だけで完結することになり、朝日岳の存在が希薄になるが、最後に茶臼岳=月山を見渡し、それを拝むとなれば意味を持つことになるのではないか。

朝日岳でもうひとつ印象に残るのは、見る方向によって山のイメージががらりと変わることだろう。北から東面にかけては、ハイマツ、ドウダン、コメツツジなどの植物に覆われている。これに対して南から西面にかけては、荒々しい岩肌がむき出しになり、険しい山容を見せる。

もちろん昔からこのような状態だったとは限らないが、もしそれほど変わっていないとしたら、ふたつの面の落差が意味を持っていたとも考えられる。特に山頂の東の縁から鬼面山へと連なる稜線を見下ろすと、まったく違うふたつの面のコントラストが際立って見える。

さて、朝日岳の山頂からは、熊見曽根、隠居倉を経て隠居倉の西側斜面中腹に位置する三斗小屋温泉に向かう。この温泉は最短でも(那須ロープウェー山麓駅上の県営駐車場から)2時間歩かなければ行けない秘湯で、煙草屋と大黒屋という二軒の旅館が営業している。本日われわれが泊まるのは大黒屋だ。

ということで、まずはこの温泉の歴史を少し振り返っていくことにしたい。伝承による温泉の歴史はかなり古いようだ。再び廣本祥己の論考「山岳信仰を支えた温泉――那須岳を例として――」から引用してみる。

三斗小屋温泉の由来が記された「下野国三斗古谷温泉伝記」によると、康治元年(一一四二)、奥州信夫郡の「生嶋某」(以降「生嶋氏」)が難病にかかり、諸国の温泉を湯治をしていたが、一向に治らなかった。ある夜、夢の中に大己貴尊が現れ、明朝に来る掃く白鹿に乗り、着いた温泉に浴するようにと教えた。翌朝、夢の通りに鹿が現れ、生嶋氏を温泉へと導いた。生嶋氏が鹿に乗った場所は、板室宿のほとりとされている。生嶋氏がその温泉で湯治をすると、病は快癒した。以上が三斗小屋温泉の発見に関する由来である

つづいて近世以後の歴史について引用する。

近世においては、三斗小屋温泉は「西湯」または「西の湯」とも呼称されていた。黒羽藩の藩政資料である『創垂可継』によると、三斗小屋温泉の湯銭は一夜で一人四文、日帰りは二文と定められており、黒羽藩の湯本奉行によって見回りや諸願の取り次ぎなどが行われていた。(中略)旅館は、明治二年までは五軒存在したが、以降は数が減り、大正時代には二軒となった。現在も、旅館は煙草屋と大黒屋の二軒のみであるが、山中の秘湯として人気を集めている

歴史が頭に入ったところで、朝日岳山頂からまずは熊見曽根の東端に向かう。山頂から朝日岳の肩まで戻る。石の道標には熊見曽根まで0.3kmと書かれている。道標に従って北西に進む。距離は短いが起伏があり、風景が変化していく。

ガスのせいで遠方の視界はきかないが、熊見曽根の東端から北にそびえる名前のない1900mピークがきれいに見える。裾野のナナカマドの紅葉が鮮やかだ。ピークの先には清水平の湿原があり、さらに進めば明日登る三本槍岳に通じている。

われわれはそのピークを右手に見ながら熊見曽根を進む。しばらく行ったところから東端を振り返ると、その起伏がよくわかる。熊見曽根の登山道周辺もカエデ、ドウダン、コメツツジ、ナナカマド、マルバシモツケなど多様な植物の紅葉が美しい。ついつい見とれてしまい、ペースが遅くなる。

尾根を進んでいくと、峰の茶屋避難小屋近辺から熊見曽根~隠居倉を眺めたときに見えたガレ場が現れる。南の谷に向かって砂礫がむき出しになっている。さらに進むと隠居倉の山頂にたどり着く。少し休憩をとったが、先ほどよりガスが濃くなり、展望を楽しむことはできない。

山頂を過ぎると徐々に急な下りになり、滑りやすいところもある。斜面をどんどん下っていくと、平坦な場所に出る。そこは三斗小屋温泉の源泉地で、白い噴煙がたちのぼっている。

源泉のわきを通ってさらに下ると、間もなく煙草屋旅館の建物の裏手に出る。その建物の間を通り抜けると大黒屋にたどり着く。16:00前後に着く予定だったが、だいぶ遅れ17:00前になってしまった。

広い居間がある本館入り口で記帳をすませ、渡り廊下で結ばれた新館の部屋に案内される。新館とはいってもその木造の建物には非常に風情があり、背景に溶け込み、秘湯の雰囲気を漂わせている。

夕食は部屋に運ばれてくるので、落ち着いて食事ができる。手作りの素朴な和食はたいへんうまい。食べ終えたら膳を通路に出しておけば片づけてくれる。

風呂は、木造りの浴槽と岩風呂があり、時間によって男女が入れ替わる。筆者は木造りの浴槽へ。だいぶ混み合っていたので、くつろぐところまではいかなかったが、浴槽や浴室そのものの雰囲気はよかった。風呂を出て、宿の建物の外で冷たい水につかっている缶ビールを購入し、部屋で飲む。もちろんうまい。宿の消灯は21:00。窓の外の樹林は深い闇に包まれている。

紅葉の那須岳 その六につづく)

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