坂東十六番札所 水澤観世音に参詣する――夏の伊香保・榛名 その一 | 楽土慢遊

坂東十六番札所 水澤観世音に参詣する――夏の伊香保・榛名 その一

所在地:
群馬県渋川市伊香保町水沢214
交 通:
JR高崎駅より群馬バス・伊香保温泉行き→約60分、水沢・下車

2013年7月13日(土):晴れ:横浜→東京駅→高崎駅→水沢バス停→五徳山水澤寺(水澤観世音)

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■海の日の三連休に一泊二日で伊香保・榛名をめぐる計画を立てた。但し、計画とはいっても、6月下旬からずっと仕事が忙しかったため、とりあえず伊香保温泉に13日(土)の宿を確保しただけで、あとは直前になって決めたので、かなり大雑把なものになった。予定通りにいけば、●山々を歩き、●霊場を訪ね、●温泉に浸かるというこのブログの三本柱を満たせるはずだが、果たしてどうなることやら。

本日の最初の目的地は、坂東三十三観音の第十六番札所である五徳山水澤寺(水澤観世音)。8:30過ぎに自宅を出て、横浜から東京駅に向かう。東京駅の駅弁屋 祭で柿の葉寿司と海鮮七福弁当を購入し、10:00発の増発新幹線あさま565号の自由席の列に並ぶ。連休初日とあってさすがに人が多い。

列車は定時に出発。高崎駅までは50分なのでさっそく弁当をいただく。奈良吉野名産の柿の葉寿司は四種(鯛・鯵・鮭・鯖)八個入り。柿の葉に包まれているので、ふたの裏にネタの一覧がついている。風味と味を楽しむために本来はしょうゆをつけずに食べると書かれていたので、まずはそのまま味わい、すべてしょうゆなしで食べてしまった。

高崎駅に到着。駅前は開けているが人影はまばらで閑散としている。西口バスターミナルの2番乗り場から11:20発の伊香保温泉行き乗る。水澤観世音がある水沢バス停までは1時間強だ。バスが郊外に出ると似た町並みがつづき、同じ場所を周回しているような錯覚に陥るが、やがて木々の緑が目立つようになり、水沢に到着する。バスを降りて最初に目にとまったのは、門前に並ぶ水沢うどんの店ではなく、水澤観世音に参詣したあとに登る予定の水沢山だった(↑Yahoo!のマップでは浅間山となっているが同じ山である)。

ではここで坂東三十三観音の話を少し。横浜に住み、鎌倉に足しげく(とまではいかないが)通っていると坂東三十三観音が身近なものに感じられてくる。この観音巡礼は鎌倉期に成立したとされ、鎌倉の古刹である第一番の杉本寺から始まり、逗子寄りの第二番・岩殿寺、鎌倉の第三番・安養院、第四番・長谷寺というように鎌倉を起点として関東の観音信仰の霊場を時計回りに巡礼し、安房の那古寺を最終札所にしている。要するに鎌倉やその近隣の居住者に好都合な経路になっている。

だから鎌倉に通ううちにこの札所を巡ってみたくなる、ということももちろんある。しかしそれだけではない。坂東三十三観音にはもっと大きな魅力がある。鶴岡静夫の『関東古代寺院の研究』(弘文堂、1988年)には、寺島裕の以下のような記述が引用されている。

平安末期に至って平家追討の軍が動かされ、多くの関東武士が西上するようになってから、彼等の間に西国札所の意義が解されるようになり、観音信仰の傾向が一段と昂まると共に、関東にも之と同様な観音札所の創設を希望する雰囲気が濃厚となり、また源頼朝の鎌倉幕府創設によって政治や文化や経済の中心が東遷するに及んで、鎌倉を中心とする関東地方の繁栄の高度な増進を見ると同時に、仏寺も一段と隆昌を加え、大寺巨刹の出現を見、遂に「坂東三十三観音札所」の創定を見るに至った」(『浅草寺』一〇三号)

西国三十三観音を手本に創設された坂東三十三観音を巡れば、鎌倉幕府を中心に次第にかたちを成していく関東圏の基盤、その歴史を垣間見ることもできるだろう。筆者は2004年の夏から断続的に札所を巡るようになり、これまでに十二の札所を参詣している。今回、目的地を伊香保・榛名に決めたときには札所のことは考えていなかったが、結果的に久しぶりに札所を訪れるいい機会になった。

坂東三十三観音については、もうひとつ頭に入れておきたいことがある。現代では札所の場所を都道府県という枠組みで区切らざるをえない。坂東三十三観音 公式サイトには、「地域で探す」というコーナーがあり、そこでは、神奈川県:9ヶ寺、東京都:1ヶ寺、埼玉県:4ヶ寺、群馬県:2ヶ寺、栃木県:4ヶ寺、茨城県:6ヶ寺、千葉県:7ヶ寺という分布になっている。だが、この境界と経路はうまくかみ合わず、不自然に感じられるはずだ。たとえば、一番~八番が神奈川県、九番~十二番が埼玉県で、十三番で東京都の浅草寺、十四番で神奈川県の弘明寺に戻り、十五番でいきなり群馬県の長谷寺まで飛ぶことになる。

しかし、昔の国の境界に当てはめると、異なる経路が見えてくる。先述した『関東古代寺院の研究』によれば、以下のような分布になる。まず一番から八番までの八ヶ所が相模国、九番から十五番までの六ヶ所が武蔵国、そして十六番以下三十三番までが、上野、下野、常陸、下総、上総、安房の諸国ということになる。そこには、三つの弧を通して、この札所巡りの発展の過程が見えるようでもある。まず相模国、武蔵国それぞれのなかで経路が弧を描き、上野から安房にかけてもうひとつの大きな弧を描くということだ。

そのことを踏まえると、十六番札所 水澤観世音の位置づけがなかなか興味深いものになる。県で分ければ群馬県の二番目の札所だが、それとはまったく違う。おそらく比較的開けていた相模国、武蔵国を出て、上野から始まる大きな弧の最初に位置している札所が水澤観世音ということになる。もちろん札所を順序通りに巡拝するとは限らないが、やはり十五番と十六番の間には他とは違う境界があるように思える。

ちなみに、手元にある歩く旅シリーズ『坂東三十三ヶ所を歩く』(山と渓谷社、2003年)の水澤寺の頁には、以下のような記述がある。「昔は、道中記に「山路に入りゆく限りなふ遥けき心地す」と書かれているように相当困難な巡礼旅であったようである

かつて険しかったであろうその道は国道に変わっている。バス停から水沢うどんの店が並ぶ道を上っていき、カーブにさしかかったところが、水澤観世音の参道入口になる。その入口わきにある水屋で、お不動さんを背中に乗せて、水を吹き出している生き物がなかなかユニークだった。甲羅があるので亀かと思うが、頭部はあまり亀らしくない。

石段の先には色鮮やかな仁王門が建っている。仁王尊が両側で睨みをきかせ、門をくぐると左右に風神と雷神が祀られている。平幡良雄は『坂東三十三ヵ所』(満願寺教化部、1985年)で、「日光の東照宮の二天門を模したとおもわれる華麗な仁王門」と書いているが、確かに似た雰囲気を漂わせている。この仁王門の裏側には、急な上に穴倉のように細い階段があり、楼門の二階に上がると釈迦三尊像を拝むことができる。

仁王門からさらに石段を上ると、正面に本堂である観音堂が建っている。江戸末期の建築と推定されている。トップに使った写真でもわかるかと思うが、向拝の透かし彫りや丸彫りが素晴らしい。本尊である十一面千手観音菩薩は秘仏ということで、開帳されていない。平幡良雄の前掲書には、縁起が以下のように綴られている。

「縁起によれば、推古・持統天皇の勅願により、高麗の恵観僧正の開基で、国司高光中将の創建といわれる。本尊は国司高野辺家成の三女である伊香保姫のご持仏だったが、姫をねたんだ継母が吾妻川に沈めようとすると、この観世音の霊験があって姫は難を免れ、高光公に嫁することができた。そこで堂宇を建立して本尊としたという」

そして境内の堂のなかでも異彩を放っているのが、観音堂の隣に建つ六角堂だ。六角形の二重塔で、一階部分の内部に回転する六地蔵尊が安置されているという珍しい構造。その一階に掲げられた扁額には「六道輪廻」と刻まれ、それぞれの地蔵尊が地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間界、天人界の六道を守り、六道輪廻の相を表わしているという。

六角堂の隣には、十二支守り本尊が鎮座する。説明板には以下のように記されている。「干支にちなむ生れ歳には、子歳生れの千手観世音菩薩から戌亥生れの阿弥陀如来まで、それぞれ守り本尊があると言われ、この守り本尊にお詣りする事によって開運招福諸願成就を得る事が出来ると言われています」。ちなみに酉歳の筆者は不動明王、悪くない。以前から不動明王には特別な関心を持っているので。

「大和(たいわ)の鐘」は一打100円の御志納金で誰でも撞けるとのこと。昭和50年完成ということで、それほど古い梵鐘というわけではない。

寺や地名が水澤(水沢)というだけあって、境内は至るところから水が零れ落ちているが、そのなかでもおそらくこの龍王辨財天が最も霊験あらたかな霊泉なのだろう。ここには毎日たくさんの人がお水取りに訪れるという。

この龍王辨財天で筆者が気になったのは、隅のほうに祀られている蛙を模した大きな石。家に戻ってから水澤観世音のHPで調べたら、この「豊家一神」には以下のような謂れがあった。

その昔、当山にはたくさんの大きな蛙がおりました。しかし食糧難の折り、その蛙を食べたことで難を逃れることができました。蛙に感謝の気持ちを込めてお水をかけ御供養をし、御祀りすることで今日まで水澤観音が栄えております

ここはゆっくりしたくなるような、実に趣のある寺だが、われわれはそうするわけにもいかない。これから寺の背後にそびえる水沢山(浅間山)に登るからだ。水沢から伊香保温泉に行くバスの本数は少ない。水沢発16:07のバスを逃すと、次が17:42になってしまう。宿には17:00チェックインと伝えてあるので、できれば16:07のバスに乗りたいところだ。

夏の伊香保・榛名 その二につづく)

この記事で使わなかった画像も含め、水澤寺(水澤観世音)の画像がもっとご覧になりたい方はギャラリーへどうぞ。以下がそのリンクになります。

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