南八甲田赤倉岳東麓・蔦の七沼を散策する――八甲田山に登る その五 | 楽土慢遊

南八甲田赤倉岳東麓・蔦の七沼を散策する――八甲田山に登る その五

所在地:
青森県十和田市大字奥瀬字蔦
交 通:
JR青森駅→JRバス十和田湖行き1時間45分、蔦温泉下車、徒歩すぐ

2012年8月16日(木):猿倉温泉→八甲田・十和田ゴールドライン(JRバス)→蔦温泉バス停→蔦の七沼

■(八甲田山に登る その四からのつづき)猿倉温泉旅館の新館に泊まった翌朝、目を覚ますとやはり雨が降っていた。今のところ思ったよりもひどい雨ではないし、雨の準備もしてきてはいるが、これからもっと荒れ模様になるはずなので、南八甲田の山歩きは今回は諦めることに。

さてどこに行って、なにをするか。マイカーの人ならとりあえず出発してもどうにでもなるが、われわれは非常に便数の少ないバスを利用して、ピンポイントで穴を埋めてくれるような目的地に移動しなければならない。

とにかく猿倉温泉の周辺には登山口以外なにもない。いっそのことバスの終点の十和田湖まで行ってしまおうかとも思ったが、今晩宿泊するのが猿倉の隣の谷地温泉なので、十和田湖まで行って戻ってくるのはちょっとばかばかしい気がする。谷地温泉も山のなかの一軒宿で、周辺には高田大岳への登山口以外なにもないので、今から向かっても手持ち無沙汰になるだけだ。

できれば自然のなかに出たいが、大降りになってもなんとかなりそうな場所などあっただろうか。そこで思い出したのが、最初に計画を立てたときに目的地の候補のひとつに上げていた蔦の七沼だ。確かそこにはビジターセンターがあった。どの程度の施設かわからないが、谷地温泉からそれほど遠くないし、南八甲田赤倉岳の東麓ということで(八甲田には北と南の両方の連峰に赤倉岳という山がある)、登ることはないにしても南八甲田の自然に触れることができる。これは悪くない。

ということで食事処で朝食をすませ、雨のなか8:50分頃に宿を出て、国道のバス停で9:00過ぎに来る十和田湖行きの1番のバスを待つ。バス停からは、山頂が雲に隠れた猿倉岳が見える。定時にやって来たバスに乗り込む。蔦の七沼がある蔦温泉バス停までは20分強。谷地温泉、仙人橋の次がもう蔦温泉だ。

蔦温泉の前はロータリーになっていて、蔦温泉園地ビジターセンターはその目と鼻の先にあった。センターのなかは明かりが灯っていて、誰もいなかった。ここなら大降りになっても屋根があるし、とりあえず荷物が置けるし、トイレもある。

部屋の一角には書棚があって、自然に関する本が並んでいる。けっこういろいろそろっている。中央のテーブルには、蔦の七沼に関する資料などが置かれ、そのわきにはベンチもある。ボードにはここで見られる野鳥の写真などが並べられている。

もうひとつ目についたのが、大町桂月のパネルだ。温泉と文人をテーマにしたエッセイのようなもので読んだ記憶もあるような気がするが、ここは桂月の終焉の地だった。パネルでは以下のように説明されている。

大月桂月は明治から大正にかけて活躍した文人で、日本の山水をこよなく愛し、全国各地に足跡をしるしています。明治41年に初めて十和田湖と奥入瀬を訪れ、当時の著名な雑誌「太陽」にその紀行文を発表しました。大正10年の再訪を機会に幾度となく足を運ぶようになり、次々に文章を著しては十和田湖の名前を広く世に知らしめしたのです。そして大正14年、蔦温泉に戸籍を移したわずか2ヶ月ほど後になって、急な病のため亡くなりました。
ここにはお墓のほか、彼のプロフィールと和歌を刻んだ石碑が建てられています

このセンターは蔦の七沼をめぐる自然散策路の起点になっているが、なかで休んでいると、センターの前を通過して沼に向かう人がいる。外に出てみると雨がやんでいた。そこでわれわれも雨がやんでいるうちに沼めぐりをすることに。歩き出すと晴れ間も見えてきた。

散策路わきの沢にも日がさし、水面が鏡のように樹木を映している。蔦の七沼は七つの沼があることからきているが、赤沼だけは離れていて(地図では片道2時間以上かかる)散策路に含まれないので、この沼めぐりで実際にめぐるのは六つの沼ということになる。

樹林のなか、木道をたどっていくと、まず七沼で一番大きな蔦沼が姿を現す。湖の西の方向には、雲の合間に南八甲田の赤倉岳(1298m)が眺められる。沼のほとりにつけられた木道のわきには、ノリウツギが咲いていた。

沼は場所によって微妙に色が変わって見える。

蔦沼を離れると緩やかな登りになり、ブナの巨木が目を引く樹林のなかを進んでいく。

樹林の間からエメラルドブルーの湖面が見える。蔦沼の西側だと思われるが、ずいぶん色が違って見える。

樹木を愛する筆者にとっては、よく保たれた自然のなかで見事な木々を見られるだけでも来たかいがあると思う。ビジターセンターに置かれていたパンフには、この地域のことが以下のように説明されている。

南八甲田連峰・赤倉岳の山麓に位置する蔦温泉の一帯は、うっそうとした深い森が広がり、その中にいくつもの池沼が点在しています。
過去の赤倉岳の火山爆発によって大量の泥流が発生し、それらが谷々を埋めて形成された地域で、泥流が川をせき止めたことにより蔦沼や赤沼などの7沼ができたといわれています。
周辺はブナをはじめとする自然林に覆われ、沼や沢沿いのくぼ地にはトチノキやサワグルミなどの落葉広葉樹、林床にはハイイヌガヤなどの低木やシダ植物が生育しています。その豊かな環境に育まれ、ニホンカモシカやテンなどのほ乳類、キビタキやアカゲラ、カワセミなどの鳥類をはじめ、多くの野生動物が生息しています

苔むした岩の間を流れる小さな沢を渡って、段差の少ない石段を登ると小さな円形の鏡沼が現れる。透明な水に樹林や空が映し出されている。

鏡沼から少し進むとすぐに次の月沼にたどり着く。鏡沼より一回り大きい。水が澄んでいるので沼に沈んだ倒木がはっきりと見える。湖中の藻のせいか緑が際立つ。

この月沼のそばに、先述した赤沼への分岐がある。その赤沼へのコースを行った場合には、まず松森というピークまで100分の登りがあり、そこから30分下ると赤沼に着く。赤沼からは40分でひとつ前のバス停である仙人橋に出られる。最初に今回の計画を立てたときに、七沼を候補にしたのは、仙人橋から七沼をめぐって蔦温泉に出るコースならちょっとした山歩きになると考えたからだった。そのコースもいずれ歩いてみたいと思う。

月沼を離れ、樹林のなかを進んでいるときにカエルに出会った。観察していると、ゆっくりとした動きで腐食した倒木のくぼみのなかに消えた。

それからしばらくして雨が降り出したので傘をさして歩く。右手の木立の間からエメラルドグリーンの湖面が見えるようになる。散策路は徐々に緩やかな下りになり、長沼にたどり着く。雨はさらに強くなる。沼の手前に都合よく東屋があったのでそこで雨宿りをすることに。

雨が小降りになったところで、岸部に出る。ここは蔦沼よりも赤倉岳の眺めがいい。地図を見ると、猿倉温泉の登山口だけではなく、この散策路からも登れるコースがあるようだが、1000mより先は登山コースではない小道に変わっているので、一般の登山者には厳しいだろう。

長沼を出て、樹林を登り下りしつつしばらく進むと、右手に分岐が現れる。菅沼をそばで見るためには、この分岐を行き、急な坂を下らなければならない。天候にもよるのだろうが、湖面に映える緑のグラデーションが美しく見える。沼には大きな倒木がたくさん沈んでいて、澄んだ水を通してそれらがよく見える。

岸に沿った道の奥まったところに、長沼と同じタイプの東屋があったので休憩することにする。東屋には先客の荷物だけが置かれていた。それから間もなくその持ち主である男性ふたりが現れた。この森を管理されている職員の方たちだった。

おふたりにわれわれが南八甲田に登る予定だったという話をしたら、お互いに目をあわせて、ちょっと呆れたような顔をされた。おそらく登山道の状況などよくご存知なのだろう。あまり勧められないとおっしゃっていた。もちろんわれわれも、天候さえよければ悪路を承知で登るつもりだったのだが。

分岐まで戻り、傾斜の緩やかな緩やかな階段を下っていく。キノコ採りが目的と思われる人とすれ違う。宿の方ではないだろうか。最後の瓢箪沼は、散策路の終点である蔦温泉のすぐ手前にある。ここにはモリアオガエルが生息しているとのこと。

12:00過ぎにビジターセンターに戻ってきた。今日の朝はどうなることやらと思っていたが、予想以上に有意義な時間が過ごせた。谷地温泉に向かうバスが出るまでにはまだけっこう時間があるので、蔦温泉を見学し、どこかで食事をとることにする。(八甲田山に登る その六につづく)

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