早朝に御室を出て、御浜小屋に向かう――鳥海山に登る その四 | 楽土慢遊

早朝に御室を出て、御浜小屋に向かう――鳥海山に登る その四

所在地:
山形県飽海郡遊佐町・酒田市/秋田県由利本荘市・にかほ市
交 通:
JR羽越本線・酒田駅→(送迎バス)鳥海山荘→(徒歩約15分)湯ノ台口コース登山口

2011年8月14日(日):晴れ:御室参籠所→千蛇谷→七五三掛→御田ヶ原分岐→鳥海湖





■(鳥海山に登る その三からのつづき)鳥海山の山頂直下にある御室小屋に泊まり、まだ暗いうちに目覚める。小屋の背後にそびえる新山の山頂に登り、ご来光を拝む人たちがすでに準備を始めていた。

山頂までは20分。われわれは前日にけっこうきついコースを歩いているので、元気があったら行こうと考えていた。ところが、なにか違和感があると思って鏡で顔を見たら、映画の特殊メイクを施したように見事に腫れあがっていた。自分の顔ではないようで、思わず吹き出した。昨日の登山道でしつこくくいついてきた虫が原因らしい。

もちろん人によっては笑い事ではないだろう。筆者もここまで腫れたことはないが、これまでの経験では、他の人よりも速く過剰な反応が出る代わりに、速く治まる傾向がある。だからあまり心配はしなかった。

しかし、腫れの度合いを確認しているあいだに、出るタイミングを逃してしまった。おそらくご来光には間に合わないと思うし、朝食の前に神社にお参りしたり、参籠所の周辺を見てまわりたかった。昨日の到着時は悪天候で、ほとんどなにも見えなかったからだ。

参籠所は石垣の上に建っている。その石垣の外は広場になっていて、そこで自炊もできそうだ。広場には別棟があり、隣に鳥居が建っている。大物忌神社にたどり着くには、火口の内側となる千蛇谷コースと昨日たどった外輪コースがある。

千蛇谷コースを登ってきた場合には、まずこの鳥居を抜け、石垣の奥にあるもうひとつの鳥居をくぐり、神社に参詣することになる。本日はその谷を下るわけだが、登ってきたときに景観が生み出すダイナミズムも想像しながら歩いてみたいと思う。

一方、昨日のように湯ノ台道から外輪コースに入った場合には、神社と参籠所の裏手に出ることになる。朝日を浴びる外輪を見ながら想像するのは、薊坂から伏拝岳に出たときに眼前に現れる景観のことだ。昨日はガスで視界が閉ざされていたが、あのきつい坂を登りきって、外輪から間近に迫る新山の光景を目の当たりにしたら、伏拝の心境になることだろう。

本日はなかなかの好天だ。山頂に行った人の楽しみには、ご来光と、鳥海山の影が日本海に映る「影鳥海」だが、果たして見られたかどうかはわからない。おそらく参籠所の前からでも見られないことはないはずだが、日本海の方向は、水平線まではっきりと見えるものの、雲が湧き上がってきたために判然としなかった。

食事処で朝食をいただき、干してあったウェアなど荷物をまとめる。予想通り、この頃には顔の腫れはだいぶ引いていた。水は昨日、河原宿でたっぷり補給してきたし、他にもドリンクを持っていたが、それでも少し不安になる。

以前、真夏に早池峰から鶏頭山を縦走したときに、十分な水を準備したにもかかわらず、強烈な日差しを浴びつづけて足りなくなったことがある。参籠所で売っているポカリスエットやお茶などのドリンク類は少々お高いが、念のため買っておく。6:20に参籠所を出発。まだ日が低いため、谷は新山や外輪の影に入っている。

しばらく進むと眩しい陽射しを背に受けるようになる。広々とした千蛇谷、そして目の前に広がる日本海と青空、昨日とは対照的に圧巻の展望が広がっている。左手に大きな雪渓が見える。青空とのコントラストが美しい。


外輪の西にそびえる文殊岳。もう少し下ったところにある七五三掛(しめかけ)は、千蛇谷コースと外輪コースの分岐点になっている。そこで外輪コースを選択すれば、文殊岳を越えて伏拝岳に出る。

雪渓を渡って外輪のふちにとりつく。雪渓のうえでは中年女性たちのグループが休憩をとっていた。外輪のふちから谷と新山を見渡すと、谷のコースを登るときの高揚感を想像できるだろう。

荒神ヶ岳と新山の山容。その二でも引用した高橋千劔破の『名山の日本史』(河出書房新社、2004年)によれば、「新山は享和岳とも呼ばれ、江戸時代の享和元年(一八〇一)に鳥海山が大爆発して生まれた」という。

目指す七五三掛は、文殊岳から稲倉岳に連なる稜線の上にある。ガレ場の手前から見られる稲倉岳の展望も美しい。

ガレ場には鉄梯子がかかっている。

ガレ場の上から七五三掛や扇子森を見渡す。

平坦な広場になっている七五三掛でしばらく休憩する。

七五三掛から次に目指すのは御浜小屋だ。火口湖である鳥海湖(鳥ノ海)を見下ろす位置に建っている。まず御田ヶ原分岐に向かう道を進む。鳥海湖を囲む外輪山、扇子森や鍋森がよく見える。

新山を振り返ると、気流とガスが不思議な光景を作り上げていた。

御田ヶ原分岐の手前の石畳。御浜小屋に直行する場合には、分岐を直進して扇子森を越えるが、われわれは左の道に入り、鳥海湖を経由して御浜まで登ることにする。

御田ヶ原の道。分岐までは登山者の姿があったが、この道を使う人は少ないらしく、静かな山歩きになる。鳥海湖に出る手前で二ノ滝口や万助道のコースと合流する。

9:45頃に鳥海湖に到着。鏡のように草原や青空を映す湖面が美しい。

七五三掛を出たあたりから、徐々に腰に違和感を覚えるようになったため、ここで休憩をとることにする。昨日、それなりの重量のザックを背負ってハードなコースを歩いたせいか。まだぎっくり腰にはなったことがないが、その手前の段階なのではという気がしてきた。

ぎっくり腰になった知人から、自分の家でトイレまではっていくしかなかったという話を聞いているので、ちょっと用心しなければならない。どれほど効果があるかわからないが、できるだけ腰に負担をかけないように歩くことにする。

今度は湖の西から南西にのびる笙ヶ岳に不思議な雲がかかっていた。笙ヶ岳から雲が湧き上がっているように見える。この稜線には長坂道コースがある。

鳥海山に登る その五につづく)




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